真壁 智治(まかべ・ともはる)


1943年生まれ。プロジェクトプランナー。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了。同大学助手を経てプロジェクトプランニングオフィス「M.T.VISIONS」主宰。<建てない建築家>を標榜し、広汎な知己力と旺盛な構想力を駆使して、戦略的視点に立つ都市・建築・住宅分野のプロジェクトに取り組んできた。2000年より、都市・建築を「伝える」、「論じる」、「表す」、「現す」ことに専心。時代の大きな変動に向き合い、<建てない建築家>の真骨頂を発揮していく。家を伝える本シリーズ「くうねるところにすむところ」で第2回芦原義信賞を受賞(2006年)。
 
主な著書に、『アーバン・フロッタージュ』(住まいの図書館出版)、『感応』(用美社)、『感性工作者の日常発想』(三省堂書店)、『家のワークショップ』(ワールドフォトプレス)、『これからのくらしとあかり』(エクスナレッジ)、『カワイイパラダイムデザイン研究』(平凡社)、『ザ・カワイイヴィジョンab』(鹿島出版会)など。


ウェブマガジン
「雨のみちデザイン」
5年目を迎えて

雨のみちデザイン 監修
真壁 智治/Tomoharu Makabe

 

2017.1.4
 

2012年、ウェブマガジン創刊1号目は、建築家・隈研吾さんへのインタビューだった. 2012年より「雨のみちデザイン」というテーマに向き合い、ウェブマガジンを発信しはじめて、5年目を迎えます。雨のみちデザインが建築・土木・ランドスケープ、そしてマニュファクチャリングに渡るテーマと承知はしていたものの、その本質をまだまだ十分にお伝えしきれていない自戒があります。

 しかし、ますます時代の関心・要請としての「雨のみちデザイン」への期待が高じてきていることは、確かなことのようです。その背景として、気候変動、サスティナビリティ、そして自然との共生、人とのつながりなどへの対応への希求があることは言うまでもありません。

 その流れの典型として、「屋根」への再認識が起こってきたことが挙げられます。この動向は建築の姿をこれからも変えていくことになりそうです。

 これまで近代建築の特徴のひとつに、屋根がフラットな陸屋根(フラット・ルーフ)がありました。

 それは建物全体をソリッドな箱型にすることにより、居室の均質化を図り、屋上を開放し、それまでの様式的な建築のシルエットが生み出す都市のスカイラインに、新たな形象の文脈(モダン・コード)を与えるもので、近代建築の持つ合理性、機能性、非装飾性、規範性を体現するものとしてそれは存在してきました。まさに陸屋根は、平等と民主主義をシンボライズする近代化のアイコンでもあったのです。

 しかし、建築家の間に「屋上庭園を可能にした近代という時代、さらに屋上庭園が葬り去った『屋根』の持つ意味、特に歴史的意味について考える。」(著:岸和郎「岸和郎の建築」より)気運が高まってくると共に、屋根型への再考がはじまります。こうした建築の近代主義の超克への思考の大きな動向を見ていくと、「大きな屋根」への時代的関心が見逃せません。

 よく観察すると大屋根へのアプリケーションは、トラス屋根派とシェル屋根派に大別されるようです。大型木造建築の大らかな大屋根のトラス架構体。波打つようにうねる大屋根のシェル架構体。共に大屋根が人々の居場所を生み出す大きなおおいになる。これらはいずれも大屋根時代を映し出すもので、新たなコモン空間としての建築の像がうかがえるようでもあります。

 そこには、建築家の屋根への動機と共に、人々の屋根に対する思慕や渇望があるようにも思われます。

 つまりは屋根が次第に文化性を表象するものとして、その地位を少しずつ取り戻しつつあるのではないだろうか。そんな事態が感じ取れる「雨のみちデザイン」の4年間でありました。

 そして、この大屋根時代の本格的な到来は、同時によりダイナミックな「雨のみちデザイン」の発想とふるまいを伴うものにもなるでしょう。

 ウェブマガジン「雨のみちデザイン」は5年目を迎え、一層屋根への建築家の思索とその方法化にせまっていきたいと考えています。今後の展開をお楽しみに。 


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